読売Bizフォーラム中部講演概要

日本経済はどこに向かうのか ~地域再生から始まる経済成長

飯田 泰之  氏 明治大学政治経済学部教授

開催日2024年11月28日 (木)
会場 TIAD,Autograph Collection「Park View North」(名古屋市中区栄5-15-19)/開場・12時45分 開演・13時30分

 飯田泰之教授が「日本経済はどこに向かうのか ~地域再生から始まる経済成長~」と題して、約70人を前に講演しました。

 飯田教授は「人口減が必ずしも経済の縮小につながるとは限らない」と指摘。生産設備の増加や生産性向上で成長できると述べました。

 所得から住居費などを差し引いた実感としての可処分所得は、東京や大阪などよりも製造業の強い愛知県などの地域が高い傾向にあるとし、「成長余力の大きい地方に人を引きつけられるかで、日本経済の成長は決まる」と語りました。

 地域経済を支える企業経営については、自社が顧客にどのような価値を提供するかに注目すべきだとしました。コンビニ業界は開いていて良かったという安心感を売っているとし、「顧客が心の中で感じる主観的な価値をどう作っていくかが重要だ」と述べました。 

 講演の概要は以下の通りです。

 ■国内回帰
 1990~2020年の30年間は経済のグローバル化が進んだ。生産や組み立て、販売などを最も効率の良い地点で行い、グローバルな物流チェーンで支える仕組みだが、あまりに精密な仕組みで、歯車が狂うと全体が止まってしまう。
 世界がこのリスクを認識したのは、ロシアによるウクライナ侵略だ。これまで中国は世界の工場として、ロシアはエネルギー源として重視されてきたが、権威主義国家と連携する危険性を西側諸国が実感した。結果、国内に生産と技術の中心、サプライチェーンを取り戻さなければいけないという共通認識が日に日に明確化している。
 ■人口減の「余力」
 国内で人口減少が不安視されているが、経済成長は人口、設備、生産性の三つで決まり人口は一つの要素にすぎない。実際、00~18年の人口増加率と経済成長は大して相関していない。
 人口減少は経済成長に前向きな影響を与えるという見解もある。人口が減って新たな働き口を提供できる、成長余力がある地域が現れるからだ。そういった地域に転職する場合、やる気ある状態で実力を生かせる環境に身を置くので生産性が上がると考えられる。
 余力のある地域は、可処分所得から住居費などの固定費を引いた「実感可処分所得」が高い都道府県だ。総務省の調査(2019年)によると、最も高いのは三重県。製造業が盛んで地価や住居費が安いため、トップに躍り出た。大都市を抱えるエリアで最も高いのは愛知県で、製造業と製造業から派生したサービスが経済を支えている。
 ■東京と地方は一体
 県民経済計算で平均所得の成長率(10~18年)を見ても、伸びているのは製造業地帯で東京は最下位から2番目とかなり低い。東京は売り上げの40%が国内の他地域からの資金流入で、東京と地方は一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係だ。東京の金を地方に回しているから東京が成長しないという人がいるが、それは間違いだ。地方経済が豊かになれば必然的に東京ももうかる。
 では、なぜ地方経済が発展できないのか。理由の一つは、キャリアを積み上げてきた女性にふさわしい仕事が、足りないからだ。能力のある女性が地方に移り住んで400万、500万円と稼げるような仕事を作れるかが、地方経済にとっての大きな使命となる。
 ■付加価値
 先進国の経済成長には生産性向上こそが重要だ。といっても、かつてのような安値で売って付加価値率を下げ、大幅に人手を減らすやり方ではない。むしろ付加価値を向上させることが大切だ。価値は消費者が感じる満足度で決まる。例えばコンビニの価値は、商品そのものではなく「開いていて良かった」という安心感や、必要な時に立ち寄れる便利さであると言える。
 この満足度をどのように高めるかがビジネスの重要なポイントだ。方法は二つあり、消費者が求めるものを先回りして考えることと、顧客の意見を徹底的に聞き、一緒に悩み、納得してもらえる結果を提供することだ。正反対と言える方法だが、どちらも新たな価値を生む源泉となる。付加価値を生み出せる企業が多い地域こそ、人を引きつける。財政政策に加え企業が自らの価値を高める努力を続けていけば、明るい未来が開けるのではないか。
     ◇
  
 ◎質疑応答
 ――(政府は)低金利などの金融緩和や財政出動を行ってきたが、なかなかデフレから脱却できなかった。技術革新や規制緩和、賃金の向上などを積み上げていくことが重要なのでは。
 財政出動をすれば経済が成長するわけではなく、需要が多い状態で労働力が移動することが条件と考える。(異業種などへの)労働移動を促進するため、各地方で魅力的な町をつくれるかも重要なポイントとなる。
 ――転職して給料が上がるのは4人に1人という話を聞いたことがある。労働力の移動は購買力の縮小につながる懸念がある。
 今年度から来年度にかけ、日本経済は久しぶりに供給不足となる見通しで、個々の働き方や働く上での納得感などを優先できる珍しいタイミングが来ている。また、年齢ではなく、役職や仕事の内容と結びついた給与に変えていくことも労働力が移動しやすい環境につながり、大切だ。

 

講師プロフィール

  • 飯田 泰之  氏 明治大学政治経済学部教授

    1975年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。

    財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、総務省自治体戦略2040構想研究会委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。専門は経済政策・マクロ経済学、地域政策。

    近著は『日本史に学ぶマネーの論理』PHP研究所、『経済学講義』ちくま新書、『これからの地域再生』編著、晶文社など。