読売Bizフォーラム中部講演概要

世の中を変えたQRコードの開発と成長

原 昌宏  氏 ㈱デンソーウェーブ エッジプロダクト事業部 主席技師

開催日2025年7月23日 (水)
会場 ホテルグランコート名古屋「ローズルーム」

 自動車部品大手デンソー(愛知県刈谷市)で、2次元コード「QRコード」を開発した原昌宏さんが「世の中を変えたQRコードの開発と成長」と題し、75人を前に講演しました。

 世界中で活用されているQRコードの開発は、1990年代頃に、トヨタ自動車に納入する部品が増えたことで、バーコードでは対応できなくなったことがきっかけだったといいます。

 誤読を減らすために格子状としたのは、原さんが趣味の囲碁をしている時に思いついたという裏話を披露しました。昨年、開発から30周年を迎え、現在は鉄道のホームドア制御や、複製防止機能を持たせて切符などに活用されていることを紹介しました。原さんは日本の競争力が低下しているとして、技術革新の根底にある夢や好奇心を持ち、改善を続けることが重要だと強調していました。

講演の概要は以下の通りです。

 ■囲碁から着想
 1980年に日本電装(現デンソー)に入社する直前にオイルショックが発生したことから、社内で自動車以外の新規事業の検討をしていた。当時はトヨタ自動車に納入する部品をバーコードで管理していたこともあり、入社後初めて作った製品が現在コンビニなどで使われるバーコードのリーダーだった。
 90年代にバブル景気が崩壊し、自動車業界はユーザーの要望を聞いて様々な機能を付けるようになり、大量生産から多品種少量生産へ変わった。それに伴い扱う部品点数も大幅に増え、管理用に多くのバーコードを使うようになった。時間がかかり生産効率も落ち、バーコードの限界を感じた。
 工場のように汚れてしまう環境で確実に読み取れる新コードを作ることを考えた。昼休みに趣味の囲碁をしていた時、打つ位置が碁盤の交点からずれたり、碁石が欠けたりしても分かるという特徴が、格子状に配置するヒントになった。通勤電車から見えたビルの上層階の窓が大きくて目立つことに着目し、読み取り装置がコードを見つけやすいよう三つの角に四角い目印を付けて、読み取り速度を上げた。
 ■使い道拡大へ
 QRコードの普及には使い道の開拓が必要不可欠だった。ただ、デンソーは自動車部品を中心とした企業間取引が中心で、個人顧客の要望を満たす市場は詳しくなかった。そこで実際に利用者にQRコードを使ってもらう中で、使い道の要望を吸い上げ、デンソーが読み取り装置などのサポートをする形を取った。
 開発当初は工場や倉庫などで使われたが、2001年から日本中央競馬会の馬券で使われ、一般の人の目に触れるようになった。その後、携帯電話の浸透などで普及が加速し、今は決済に使われるまで拡大した。
 普及した要因は利用者の力を借りて使い道を広げたことだ。利用者視点で使いやすいようにした。時代の変化に対応できるように、開発当初から機能を拡張できる構造に設計したことも奏功した。コピー機で複製できないようにしたものはコンサートチケットに使われた。電車にコードを貼ってホームドアの制御にも使われている。
 ■ナニクソ精神
 IT技術は当時から欧米が主流で、日本の自動車部品メーカーが世界に通用する2次元コードを作れるはずがないと思われていた。期待されなかったし、「ふざけている」と言われたこともある。そういう人たちを見返してやろうというナニクソ精神があった。
 今となれば、工場という汚れやすい環境でも確実に読めるコードを作ろうと考えたので、QRコードが生まれた必然性があったと思うようになった。もしIT企業に勤めていたら、きれいなコードを読むことしか考えていなかっただろう。
 世界における日本の競争力は低下している。技術革新は夢と好奇心を持ち、利用者視点に立ち改善を続けることが重要だ。時代が変わりQRコードも進化し続けた。課題を見つけて日本を元気にしてもらいたい。
     ◇
 ◎質疑応答
 ――開発した30年ほど前に、特許権をオープンにするという発想は最初からあったのか。お金に換えるという観点はなかったのか。
 開発当時、我々の会社は、言われた仕様の部品を作っておけばよかったという側面がある。そのため、マーケティングという部署がなく、QRコードを広められるはずがないと思い、特許をオープンにしようと考えた。また、お金を取ることにも違和感があり、難しいとも考えていた。幸いにも、会社も当時はQRコードがこんなことになるとは誰も思っていなかったということもあり、「好きにすれば良い」という雰囲気だった。

講師プロフィール

  • 原 昌宏  氏 ㈱デンソーウェーブ エッジプロダクト事業部 主席技師

    1980年に日本電装(現デンソー)に入社して新規事業の製品開発を担当する。最初にコンビニエンスストアのレジなどで使用されている小型バーコードスキャナを、その後に文字認識装置を開発した。

    1994年にQR(クイックレスポンス)コードを発明し、以降QRコード読み取り装置や、進化したQRコードの用途開発に従事している。また、これまでの新規事業の経験を若い人に伝えたい思いから、福井大学客員教授、名古屋学院特任教授を兼任している。