読売ビジネスフォーラム(北海道):講演概要
日本経済の現状と課題~イノベーションの役割
吉川 洋 氏 東京大学名誉教授
経済学者の吉川洋・立正大学長(70)は、人口減少が進む日本でいかに経済成長を目指すかを説き、「先進国の経済成長の鍵はイノベーション(技術進歩)にある」と強調した。
吉川氏はマクロ経済学が専門で、東京大教授などを経て、2019年から現職。著書に「転換期の日本経済」などがあり、読売新聞の時事コラム「地球を読む」の執筆陣の一人でもある。
吉川氏は講演で、まず日本経済の現状を分析し、コロナ禍による戦後最悪の不況は、本来は安定している消費が最大の落ち込みを示したのが特徴だとした。さらに、多くの人が社会保障の将来に不安を抱き、お金を貯蓄に回しているのが一因で、日本ではコロナ前から、所得から消費に回すお金の割合を示す「消費性向」が低下する傾向にあったとも指摘。「消費が伸びないことが、日本経済の重しになっている」と述べた。
その上で人口減少下での経済成長について語り、人口減少は解決しなければならない問題だが、人口が減っていくと経済は右肩下がりになるとの悲観論を「単純すぎる」と批判。経済成長率が約10%だった高度成長期にも、人口増加率は1%程度だったことを示し、高度成長は「1人当たりの所得が伸びたことによってもたらされた」と解説した。
最後に、近年の日本企業は投資よりも貯蓄が多くなっていることを、経済学者ケインズが企業活動に必要と説いた「アニマル・スピリッツ(野心的意欲)」の衰退だと嘆いた。そして、「『人口が減るから駄目なんだ』から企業は卒業すべきだ」と語り、新しい需要を生むイノベーションに取り組む重要性を指摘。その例として手で洗濯する苦労から人を解放した電気洗濯機や、米国で開発されたロボット掃除機などを挙げた。
◆講演のポイント
▽消費の縮小と社会保障の将来不安
社会保障は格差を抑える「防波堤」だが、多くの人が社会保障の将来に不安を持っていることが、所得を消費よりも貯蓄に回すことにつながっている
▽人口減イコール「右肩下がり」ではない
人口と経済成長は普通に考えられているほど直結してはいない。人口が減っていくから経済は右肩下がりになると考えるのは単純すぎる
▽経済成長のカギはイノベーション
1人当たりの所得を伸ばすのは、ソフトを含めた広い意味での技術進歩。社会のニーズを先取りして新しいものを作り出す力が経済を引っ張ってきた
講師プロフィール
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吉川 洋 氏 東京大学名誉教授
1951 年 東京 生まれ。 立正大学 学長、 東京大学名誉教授。
東京大学経済学部卒業後、 エ ール大学大学院博士課程修了。
ニューヨーク州立大学助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学助教授、東京大学大学院教授を経て、現職。専攻はマクロ経済学。
著書に『 マクロ経済学の再構築――ケインズとシュンペーター 』、『日本経済とマクロ経済学』、『高度成長』、『転換期の日本経済』、『人口と日本経済』など。
2010 年 紫綬褒章 受章。