読売ビジネスフォーラム(北海道)講演概要

「感染症と日本~歴史に学ぶ」

本郷 和人  氏 東京大学史料編纂所教授

開催日2021年7月2日 (金)
会場 札幌グランドホテル/正午~

 7月2日に開かれた「読売ビジネス・フォーラム2021」の講演で、東大史料編纂(へんさん)所の本郷和人教授(60)は、新型コロナウイルスの感染がいまだ続く中、日本史の中で繰り返されてきた感染症との闘いを解説し、「民間が主導して病と闘う姿勢を見せていたことが、日本の医療の強みでもあった」と語った。
 本郷氏は日本中世史が専門。「新・中世王権論」など多くの著書があり、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」をはじめ映像作品や漫画の時代考証にも携わっている。
 本郷氏は、日本の歴史を通して、戦争や飢餓に加え、疫病が人口増加を抑制する大きな要因になってきたと指摘。その上で、中世欧州で大流行し、モンゴル帝国滅亡の要因になったともされるペストが日本で流行しなかったのはなぜか――と問題提起した。
 近年の日本史研究では、鎖国下でも海外と交流が続いていたことから、国と国とをつなぐものとしての海の側面が強調されることが多い。本郷氏はこれに対し、幕末に流行したコレラも規模は限定的だったことなどを挙げ、「海は、国と国を隔てる性格も持っている」と異論を唱えた。
 奈良時代に猛威を振るった天然痘については、総人口の4分の1から3分の1にあたる100万~150万人が死亡したとの説を紹介。政権を担った藤原4兄弟も犠牲となり、大仏を造った聖武天皇の妻の光明皇后が4兄弟の妹だったことから、大仏造立は「大量の死者を悼む目的もあったのではないか」と述べた。
 江戸時代に地方の藩医が独自に種痘法を改良したことや、地域社会が医師を育成する仕組みがあったことも紹介した。「疫病による死者数など、文字資料だけでは答えが出ない問題にも挑戦することを、歴史学は心がけなければならない」と本郷氏は力を込めた。
 
 ◆講演のポイント
 ▽疫病流行の地理的要因
  中世欧州で大流行し、モンゴル帝国を滅ぼしたとされるペスト。日本に上陸しなかったのは、海で隔てられていたことが大きい  
 ▽天然痘と鎮魂
  奈良時代には天然痘が猛威を振るい、一説には100万~150万人が死亡。大仏の造立には、死者を悼む目的があったのではないか
 ▽日本人の清潔志向
  日本人の清潔好きは、清らかさを重んじる神道の影響があるのではないか

講師プロフィール

  • 本郷 和人  氏 東京大学史料編纂所教授

     1960年、東京都生まれ。東京大学文学部卒。専門は日本中世史・古文書学。著書に『中世朝廷訴訟の研究』『新・中世王権論』『天皇はなぜ生き残ったか』『天皇にとって退位とは何か』など多数。大河ドラマ「平清盛」など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっており、AKBのファンとしても有名。