読売ビジネスフォーラム(北海道)講演概要

経済安全保障とは何か~激動の世界で安倍政権が目指したもの

北村 滋  氏 前・国家安全保障局長

開催日2022年11月1日 (火)
会場 京王プラザホテル札幌(札幌市中央区北5条西7丁目)/正午~

 前国家安全保障局長の北村滋氏が「経済安全保障とは何か〜激動の世界で安倍政権が目指したもの」と題し、約130人を前に講演した。

 北村氏は経済安全保障の重要性について語り、「戦わずして勝つという考えは、エコノミック・ステートクラフト(経済外交策)と親和性が高い。抑止力をどう高めていくかが大切」と訴えた。

 経済安全保障で取り組むべき課題として、①サプライチェーン(供給網)の強化 ②官民技術協力 ③基幹インフラ(社会基盤)の安全性・信頼性確保 ④重要発明の特許非公開−−−の4点を挙げた。「各国が半導体製造など産業の内製化をしている。安全保障上、真剣に考えないといけなくなっている」と述べた。

 北村氏は警察庁出身で、第1次安倍内閣の首相秘書官などを務めた。北村氏は、外国の航空機が領空侵犯し、自衛隊機がスクランブル発進する件数が年間で700〜1000あるのに対し、北大西洋条約機構(NATO)では500件、アラスカでは50件と大きな開きがあることなどを指摘。ロシアのウクライナ侵略については、「ロシアの戦力が消滅しており、プーチン大統領にとって厳しい状況。戦術核の使用はないという論調もあるが、本当にそうなのかよく考えた方がいい」と不安を示した。

 また、これまではインターネットなど軍事由来の技術が民間に転用されてきたと指摘しつつ、現在は、人工知能や量子コンピューター、暗号資産に使われるブロックチェーンなど民間で生まれた先端技術が軍事に転用されているケースが多くなっていることを紹介。コロナ禍で、医療用品の国内でのサプライチェーン(供給網)確保の重要性が高まったことなどを例に、「安全保障が経済、技術分野に拡大しつつある」とした。

 経済安全保障については、5月に経済安全保障推進法が成立し、岸田政権下で実践に移されていることを強調。「周りが変わってしまい、グローバリゼーションの時代には戻れない。世界情勢を率直に見ないといけない」と述べ、情報収集などの際の法整備や、民間技術を活用していくためにも企業などの安全面での適格性審査などが今後の課題になるとした。

◆講演のポイント

▽増大する危機

領空侵犯による自衛隊機のスクランブル発進は年間700〜1000件。欧州やアラスカと比べても格段に多い。中国海警局の船の接近やミサイル実験の頻度も高く、脅威にさらされている

▽変わる技術革新

かつてはインターネットなど軍事由来の技術が民間に転用されてきたが、人工知能や量子コンピューター、ブロックチェーンなどの先端技術が民間から生まれ、軍事転用の重要性が高まっている

▽経済安全保障とは

経済を安全保障政策の「力の資源」として利用する政策

① サプライチェーン強化

② 官民技術協力

③ 基幹インフラの安全性・信頼性確保

④ 重要発明の特許非公開が重要

講師プロフィール

  • 北村 滋  氏 前・国家安全保障局長

     1956 年東京都生まれ。東京大学法学部を経て、1980 年警察庁に入庁。

    2006 年内閣総理大臣秘書官(第1次安倍内閣)、その後、兵庫県警察本部長、警備局外事情報部長を歴任し、2011 年内閣情報官に就任。特定秘密保護法の策定・施行に携わる。2019 年国家安全保障局長・内閣特別顧問に就任。同局経済班を発足させ、経済安全保障政策を推進した。

    著書に『情報と国家-憲政史上最長の政権を支えたインテリジェンスの原点』、『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』などがある他、米、豪、仏など各国から勲章を受章。