読売ビジネスフォーラム(北海道):講演概要
食の王国 北海道 ~ その限りなき未来
小泉 武夫 氏 発酵学者 東京農業大学名誉教授
発酵学者で東京農大名誉教授の小泉武夫氏が「食の王国 北海道~その限りなき未来」と題し、約160人を前に講演した。
小泉氏は、発酵技術を活用した地域活性化の必要性を説き、「道内は食料自給率が高い。発酵を生かせる可能性がある」と強調した。
発酵が食品だけでなく、医薬品やエネルギー生産など幅広い分野で活用されていることを指摘。食品加工の際に出るごみなどを発酵させ、しょうゆや堆肥(たいひ)に生まれ変わらせるアイデアを披露した。地球温暖化にも触れ、「北海道の農水産業も気候変動対策をしないと間に合わなくなる」と強調し、一例としてお茶の栽培を提案した。
小泉氏は福島県の造り酒屋に生まれ、東京農大卒業後、1982年から同大教授を務めた。農林水産省全国地産地消推進協議会会長や道名誉フードアドバイザーとして全国の食の活動に携わり、「北海道を味わう~四季折々の食の王国」(中公新書)などの著作がある。
小泉氏は講演で、発酵全体の売り上げのうち、チーズやしょうゆなどの食品は17%に過ぎず、抗生物質などの医薬品やメタン発酵によるエネルギー生産など多岐にわたることを挙げ、「発酵が日本の食と産業を支えている」と述べた。
さらに、自らが関わった事例を紹介。山梨県では、光が十分に当たるブドウ棚で育てた糖度の高い「天空かぼちゃ」を発酵させて作った蜜を東京のスイーツ店がこぞって仕入れるようになったことや、佐藤水産(札幌市)がサケの内臓を発酵させて魚醤(ぎょしょう)を造ったことを挙げた。平安時代には野菜を使ったしょうゆが造られていたことも紹介し、「甘く、女性が好む味になる。道内で取り組むと面白いのでは」と提案した。
温暖化にも触れ、道内の気温がお茶の栽培に適しつつあることを指摘。「ただ単にお茶を作れということではなく、急激に気候が変動しているので色々な方策で対応していくべきだ」と述べた。
来場者から和食の重要性について問われ、「食生活の変化で、生活習慣病が増えている。和食を推進すれば(関連食材を生産する)農家は助かる」とした。
◆講演のポイント
▽発酵が日本の食と産業を支えている
発酵全体の売り上げのうち食品は17%。医薬品やエネルギー生産など発酵技術の活用は多岐にわたっている
▽道内は可能性がある
農産物をすぐに出荷せず、発酵など加工することで利益が出る。観光など町おこしにもつながる
▽温暖化対策
道内の気温がお茶の栽培に適してきている。果物も栽培品目を変えるなど幅広く対処するべきだ
講師プロフィール
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小泉 武夫 氏 発酵学者 東京農業大学名誉教授
1943年、福島県の酒造家に生まれる。農学博士。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。東京農業大学農学部醸造学科卒。
1982年から同大学教授を務め、2009年より名誉教授。農水省全国地産地消推進協議会会長、北海道名誉フードアドバイザーなど各地の農政アドバイザーとして食の活動に携わる。
現在、鹿児島大学、福島大学などの客員教授を務め、食の魅力を広く伝えている。
「北海道を味わう~四季折々の食の王国」(中公新書)など著書も多数。