読売ビジネス・フォーラム(北海道):講演概要
トランプ政権再来:その影響と課題
中林 美恵子 氏 早稲田大学教授
発足間近の米国・トランプ新政権の課題と、日本への影響は何か--。米国政治に詳しい早稲田大の中林美恵子教授(64)が、「トランプ政権再来 その影響と課題」と題して講演した。
中林教授は、米連邦議会・上院予算委員会で米国家予算の編成に携わった経歴を持つ。
昨年の米大統領選では、開票直前まで、共和党のトランプ氏と民主党のハリス副大統領との大接戦と報じられていたが、結果的には予想を覆し、トランプ氏が選挙人の数で大差をつけた。
この原因について、中林教授は有権者の動向に関する各種調査などを基に解説。「今回は投票日直前まで投票先を迷っていた有権者が多く、最終的に『トランプの方が言ったことをやってくれる』と選択した結果と思われる」と語った。また、各種調査では、経済が一番大事だと言った有権者や、現状に変化をもたらすことを期待した有権者の多くがトランプ氏に投票した、という結果もあった。
バイデン政権下ではインフレなどによって「経済は良くない」と思う米国民が多く、逆にトランプ氏の1期目は「良い」と思う人が多かった。このことも、トランプ氏への期待につながったという。
こうした背景から、中林教授は、「2期目のトランプ氏の生命線は『経済』とし、閣僚候補の人選にも表れていると指摘した。特に、財務長官に起用する投資家のスコット・ベッセント氏、商務長官に任命した実業家のハワード・ラトニック氏については、言動を巡って共和党内からも異論が出ている他の閣僚候補とは一線を画す人物だとした。また、「(両氏が)日本好きという有利な情報もある」と中林教授は明かした。
講演の最後、会場からは、2月前半にも訪米してトランプ氏と日米首脳会談を行う予定の石破首相は、どう対処すべきかとの質問が出た。中林教授は「トランプ氏が内心で何を欲しがっているのかを調べて準備し、コントロールできれば一番いい」と答えた。
◆中林教授の講演のポイント
◇米大統領選に関する各種調査の結果を見ると、現状の打破を期待する人たちの多くがトランプ氏を支持した
◇トランプ氏に対して、米国の有権者は第一に経済を良くすることを期待している。2期目のトランプ氏は経済政策が生命線であり、それは閣僚候補の人選にも表れている
◇石破首相は、トランプ氏が経済で日本の何を欲しがっているのかを調べ、具体的政策に落とし込んで準備しておく必要がある
講師プロフィール
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中林 美恵子 氏 早稲田大学教授
埼玉県生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。
米国在住時、1992年に永住権を取得後、アメリカ連邦議会・上院予算委員会補佐官に正規採用され、約10年間、米国家予算の編成に携わる。
2002年に帰国し、独立行政法人・経済産業研究所研究員、衆議院議員、早稲田大学准教授などを経て、2017年4月より現職。
著書に『沈みゆくアメリカ覇権:止まらぬ格差拡大と分断がもたらす政治』(小学館新書)、『トランプ大統領とアメリカ議会』(日本評論社)など多数。