読売ビジネスフォーラム(北海道)講演概要

陽はまた昇る~技術立国復活への挑戦~

東 哲郎  氏 Rapidus(ラピダス)株式会社 取締役会長

甘利 明  氏 衆議院議員 自民党半導体戦略推進議員連盟会長

吉田 清久 読売新聞社 編集委員(コーディネーター)

開催日2024年9月2日 (月)
会場 札幌グランドホテル(札幌市中央区北1西4)/正午〜

 北海道千歳市を拠点に次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス」の東哲郎会長(75)と、自民党半導体戦略推進議員連盟会長の甘利明衆院議員(75)が、「陽はまた昇る~技術立国復活への挑戦~」と題して対談した。世界最先端の2ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の半導体量産への「勝算」や、日本経済や北海道にもたらす効果などについて、約150人の参加者を前に語った。コーディネーターを吉田清久・読売新聞東京本社編集委員が務めた。
 東会長は「ビジネスとして成功する確率が高い」と述べ、実現に自信を示した。装置や素材を手がける国内メーカーが持つ技術力を生かし、早期の事業モデルの構築を見込む。
 ラピダスは、北海道千歳市に建設中の工場で、2025年4月の試作ライン稼働、27年の量産開始を予定している。東氏は北海道を選んだ理由について、「新たな拠点を作り、地元と一緒に経済圏を作ろうと考えた」と話した。
 工場は、回路線幅が2ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の先端半導体の生産を計画しており、連携する米IBMにスタッフを送って開発を急いでいる。東氏は、「今後はスピードが決め手になる。設計と製造を最適化し、かかる時間を2分の1にする」と説明した。
 半導体の生産には巨額の投資が必要で、ラピダスでは、量産を始めるまでに5兆円規模がかかるとされる。現在は、トヨタ自動車やNTTなど国内8社、計73億円の出資や、政府による最大9200億円の支援にとどまっている。
 甘利氏は「半導体は電子制御社会の基幹部品で、日本は供給する側に回らなくてはならない」と強調した。「自立する前に手を抜けば、投資は無駄になる。官と民の合わせ技で資金をつないでいかなければならない」と述べた。民間投資を呼び込みやすいように、融資に政府保証をつける関連法案を早期に国会へ提出する必要性を訴えた。

東哲郎会長
 世界の半導体シェアで日本はかつて約50%を占めていたが、現在は10%を切っている。最先端の技術を放棄して、輸入に依存しているが、その輸入も政治的な状況で危うくなっている。日本が世界と戦える強い産業競争力を持つため、何としても「2ナノ」の技術を手に入れ、最先端の半導体産業を育てていかなければならない。
 「2ナノ」は、データセンターのサーバーなどに求められる高性能と、自動車や携帯電話に求められる低電力の両方の用途に優れている。最近、市場が急伸している人工知能(AI)の需要の急増に対応できる。
 我々は(設計と製造の分業失敗という)過去の反省も含めて、アメリカ、ヨーロッパ、インドと多極的に連携をしながらサプライチェーン(供給網)を構築していく。それと、非常に速いスピードで半導体を生み、差別化を図る。
 ◇ ◇ ◇ 
甘利明会長
 半導体は電子制御社会の基幹部品だ。国家戦略として取り組まなければならないとの持論があり、議員連盟を作った。日本はもう一度、半導体製造で世界一を取り戻すべきだと提唱したら、「過去の失敗を忘れたのか」との反発もあったが、今はDX(デジタルトランスフォーメーション)という社会の大きな変革の時。過去とは違う。
 DXによって、世界は半導体を供給する側とされる側に二分される。鮮烈な言い方だが、日本が生殺与奪を握る側に回らなくてはならない。
 ラピダスの成功に必要なのは、量産技術の確立と、ユーザーの確保だ。そのため官民でしっかりした支援態勢を組む必要がある。岸田首相は、継続的に資金供給できる枠組みを作らなければならないとおっしゃった。融資に政府保証をつけるための法案を早期に国会に提出すべきだ。

フォーラムの後半では、東会長と甘利氏によるパネルディスカッションが行われた。

—最先端の「2ナノ」を目指す勝算は。
【東】 (ラピダスと量産技術の開発で提携する)米IBMへ、日本から100人超の精鋭エンジニアが行っており、高く評価されている。平均年齢は50歳近く、日本の半導体事業が輝いていた頃に働いた経験がある優秀な人。信頼と期待をしていただきたい。

—若い人材はどうか。
【東】 毎月20〜30人が入社し、現在500人。今年4月に約30人のうち9人が大学か大学卒で入社したが、おそらく、決まっていた他社を蹴ってきてくれた人もいる。若い人たちにもラピダスが浸透してきた。来春も楽しみだ。
【甘利】 海外にいる日本のトップ技術者が「これがやりたかった、いよいよ世界一を取り戻すぞ」と燃えてほとんど帰ってきた。その人材に感化され、優秀な人がどんどん来ている。

—北海道に期待することは。
【甘利】 (空港周辺の土地や電力供給など)半導体関連の企業立地に向けたベースがそろっているところはあまりない。(米半導体大手)インテルのCEO(最高経営責任者)が「半導体製造工場は、20世紀の油田と同じアドバンテージ」と言っていた。ブラックホールのように企業を吸い寄せ、日本がこれまでの流れを反転させる求心力を持つチャンスだ。

◆ラピダスの目指す姿
▽回線幅2ナノ・メートルの先端半導体を2027年までに量産化
▽量産には5兆円規模の投資が必要。国内8社の73億円出資、政府の最大9200億円支援はすでに決定

講師プロフィール

  • 東 哲郎  氏 Rapidus(ラピダス)株式会社 取締役会長

    東京都生まれ。1973年国際基督教大卒、1977年東京都立大大学院修了、東京エレクトロンに入社。

    90年取締役、96年社長、2003年会長、13年に兼務する形で社長に復帰。16年相談役。

    国際半導体製造装置材料協会(SEMI)会長、日本半導体製造装置協会会長、技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)理事長などを歴任。

    2022年にRapidus(ラピダス)を設立し、現在に至る。

  • 甘利 明  氏 衆議院議員 自民党半導体戦略推進議員連盟会長

    神奈川県生まれ。1972年慶応義塾大法学部卒業後、ソニーに入社。

    1983年衆議院議員初当選。通商産業政務次官、労働相、衆議院予算委員長、経済産業相、規制改革・行革・公務員制度改革担当相、自民党政務調査会長、経済再生担当相、経済財政政策担当相、自民党税制調査会長、幹事長などを歴任。現在、自民党経済安全保障推進本部長。2021年より半導体戦略推進議員連盟会長を務める。

  • 吉田 清久 読売新聞社 編集委員(コーディネーター)