読売ビジネスフォーラム(北海道):講演概要
師匠が語る弟子、藤井聡太という才能
杉本 昌隆 氏 (公社)日本将棋連盟理事 棋士(八段)
将棋の7タイトルを持つ藤井聡太竜王(22)の師匠として知られる杉本昌隆八段(55)(日本将棋連盟理事)が8月2日、「師匠が語る弟子、藤井聡太という才能」と題して講演した。
「最強の弟子」である藤井竜王は、子どもの頃からどんな才能を持っていたのか。若い弟子たちへの指導で心がけていることは何か−−。集まった約130人を前に約1時間、ユーモアを交えたっぷりと語った。
「青は藍(あい)より出(い)でて藍より青し」。杉本八段は、弟子の実力が先生を追い越す例えを引用して、藤井竜王の成長を振り返った。
小学4年で弟子入りする前の小学1年の頃に知り、既に「発想の豊かさ、思い浮かばない手を考えられる少年で、トップ棋士を上回るかもしれない才能の持ち主」だと思ったという。
藤井竜王の強さの要因としては、少年時代から将棋に対して「新鮮な気持ちを持ち続けている」ことを挙げた。「これは定跡だけれども本当にそれでいいのか」と疑問を持ったり、セオリーとは違う手を考えてみたりと、「常に疑問を持っていた」と明かした。「時間をかけてよく考える」姿勢は現在も変わらず、対局での長考だけでなく、インタビューでも無難な受け答えをせず自分の言葉を精査するところに表れているという。
講演の終盤では、藤井竜王らへの指導を踏まえ、親子ほど年齢の離れた弟子たちとどう接しているかについても話した。
弟子と対局するときは、時間いっぱい考えて指すようにしている。また、感想戦では「一緒に考えようよ」と若者に話しやすい雰囲気作りをしていること、弟子の教えてくれた形が実戦で成功したら大いに褒めているとのエピソードも明かした。
師匠として毎年、弟子にお年玉をあげていると話した杉本八段。「藤井さんは竜王になっても、深々と頭を下げて受け取ってくれました」と言って目を細め、会場を笑わせていた。
◆ 師匠が見る藤井竜王の「才能」
▽ 新鮮な気持ちを持ち続ける
定跡やセオリーに対して「この場面は本当にこれでいいのか」と、常に疑問と好奇心を持ち続け、よく考える少年だった
▽ 「集中力が特続する
子どもの頃から、将棋の途中で「疲れました」と言うのを一度も聞いたことがない。対局中はほとんど席を立たず、相手の手番でもずっと考えている
▽ 切り替えが早い
子どもの頃、悔しい負け方をして泣くことがあったが、次の対局が始まるとケロリとして勝っていた
講師プロフィール
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杉本 昌隆 氏 (公社)日本将棋連盟理事 棋士(八段)
愛知県生まれ。1980年 6級で(故)板谷進九段門下となる。1990年10月、四段。2019年2月、八段 。2002年5月、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。 竜王戦1組在籍期間は8期。
2008年「NHK将棋講座」の講師を務める。2022年 公式戦通算600勝を達成、将棋界57人目となる「将棋栄誉賞」受賞。
藤井聡太竜王(八冠)の師匠としても知られる。2021年より現職理事。過去の著書は20冊以上。『師匠はつらいよ~藤井聡太のいる日常~』はベストセラー入り。