読売ビジネス・フォーラム(北海道):講演概要
北海道の未来をともに切り拓く
~脱炭素社会や観光立国実現に向けて~
地下 誠二 氏 株式会社日本政策投資銀行 代表取締役社長
日本政策投資銀行(DBJ)の地下(じげ)誠二社長(62)が7月25日、「北海道の未来をともに切り拓(ひら)く ~脱炭素社会や観光立国実現に向けて~」と題して講演した。
DBJは全額政府出資の政府系金融機関。地下氏は工場などの排ガスから二酸化炭素(CO2)を回収して地中に閉じ込める取り組みが苫小牧市で進んでいることを評価し、「脱炭素時代の新たな工場立地を追求すべきだ」と述べた。
また、千歳市の新工場で先端半導体の量産化を目指す「ラピダス」について、「公的・民間双方を組み合わせた投融資の調整役を果たしたい」とした。
ラピダスは今月18日、「2ナノ半導体」の試作成功を発表。地下氏は「驚異的で、あの試作品を作り上げたのは神業に近い」と絶賛した。一方で、今の北海道には先端半導体を生かすための供給網がない点を課題に挙げ、「ラピダスを支える産業を作っていくことも極めて重要だ」と指摘した。
会場からは「DBJはラピダスに出資を検討しているのか」との質問が上がった。これに地下氏は直接の回答は避けたものの、「一定の関与はしていく。公的・民間双方の資金を混ぜた投融資の調整役を果たし、適正なリスク分担をしていく」と説明。また、「『2ナノ半導体』を使いこなす能力がある企業に、ラピダスのユーザーたりうる企業に育ってほしい」と注文した。
講演では、脱炭素社会に向けた北海道経済にも期待を寄せた。
地下氏は、工場などから出る排ガスから二酸化炭素(CO2)を回収し、地中に閉じ込める「CCS」の事業化に向けた取り組みが苫小牧市で進んでいることを高く評価。CO2などからメタンを合成して燃料にする技術とともに、「脱炭素時代の新たな工場立地を追求すべきだ」と求めた。
また豊富な自然エネルギー源がある北海道で、再生可能エネルギーを活用するには電力の「地産地消」を進め、遠方に電力を送る送電線敷設の投資を抑えるなどの工夫が必要だと主張した。
北海道の主要産業である観光の振興については、デジタル技術を生かし、目的地までの最適な交通手段を提供する次世代移動サービス「MaaS(マース)」の導入を提案した。
◆DBJ・地下社長の主な提言
◇ラピダスの技術開発は驚異的。これからの北海道には、先端半導体の供給網やラピダスを支える産業を作っていくことが極めて重要だ
◇北海道は再生可能エネルギーの潜在力が全国一。発電した地域で電力を使う仕組みなど、再エネを生かす工夫が必要だ
◇苫小牧での「CCS」などは脱炭素時代の新たな工場立地を追求すべきだ。北海道の優位性は、事業化できる用地があることだ
◇観光を支える交通の課題を解決するため、デジタル技術を活用した「MaaS」の導入が望ましい
講師プロフィール
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地下 誠二 氏 株式会社日本政策投資銀行 代表取締役社長
1963年岡山県生まれ。 1986年東京大学法学部卒業後、日本開発銀行入行。 2010年日本政策投資銀行特命チーム部長兼経営企画部担当部長、2013年執行役員経営企画部長、 2015年常務執行役員、2020年代表取締役副社長を経て、2022年6月より現職。