読売ビジネス・フォーラム(北海道):講演概要
書く、読む、楽しむ
柚月 裕子 氏 作家
多彩なテーマでヒット作を次々と生み出す人気作家の柚月裕子さんが「書く、読む、楽しむ」と題して約130人を前に講演した。将棋のタイトル戦に事件が絡む「盤上の向日葵(ひまわり)」や北海道の大学病院が舞台の「ミカエルの鼓動」、警察小説「孤狼の血」などの創作秘話を披露。「知らないところからのスタートが基本で、将棋は児童向けの本からレベルアップして読み込んで知識を得た」と明かした。柚月さんは子供の頃から読売新聞の読者だといい、「今でも新聞は情報の基本。世の中で何が重要なのかを知った上で、自らの関心事を掘り下げた先のインスピレーションが作品につながっている」と語った。
北海道の大学病院が舞台の「ミカエルの鼓動」は大雪山、支笏湖、北竜町のひまわり畑などが描かれている。柚月さんは、大学のモデルが北海道大だと明かした上で、道内を訪れた際の秘話を明かした。医療にとどまらず、テーマが幅広いのが柚月作品の特徴だ。警察と暴力団が激しく対峙(たいじ)する「孤狼の血」では警察関係者から話を聞き、「盤上の向日葵」は将棋の本を児童向けから専門家向けまで段階的に読み進めた上で現地取材へ出向いた。「創作は、知らないところからのスタートが基本」と柚月さん。専門知識がなければ、まずは本を資料にして調べるという。 「法廷ものや将棋ものなどはテーマが奥深いとはじめにわかっていたら、臆して書けなかったかもしれない。生半可に知っていて『ちょっとやってみたいな』と思う『怖いもの知らず』には、時にはいいことがある」。柚月さんは自らの創作姿勢を振り返り、経営者らに成功のヒントを示した。
また「小説は作家一人では作れない」と断言。パートナーである編集者とは「面白い作品を読者に届ける最終目的が互いにぶれていなければ、多少の食い違いはカバーできる」と説いた。さらに「家庭でも、目標が同じなら乗り越えられる」と述べた。
柚月さんは子供の頃から読売新聞の読者だと明かし、「新聞は昔から情報の軸で、今でも情報の基本」と説明。「世の中で何が重要なのか知った上で、自らの関心事を掘り下げた先のインスピレーションが作品につながっている」と語った。
最後に、最近の「本離れ」について問われると、柚月さんは「紙の本からは離れていっているかもしれないが、『物語離れ』にはなっていない。作品発表の場も増えている」と指摘。「大人が本に夢中になれば、子供も面白さに気づき、好きになる」と答えた。
◆ 作家・柚月裕子さんの講演のポイント
◇ 創作は、知らないところからのスタートが基本。「怖いもの知らず」には、いいことがある
◇ 小説は作家一人では作れない。編集者とは、面白い作品を読者に届ける最終目的が互いにぶれていなければ、多少の食い違いはカバーできる
◇ 子供の頃から読売新聞を読んでいる。今でも新聞は情報の基本
◇ 大人が本に夢中になれば、子供は本好きになる
講師プロフィール
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柚月 裕子 氏 作家
1968年岩手県生まれ。
2008年『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。18年『盤上の向日葵』で「2018年本屋大賞」2位。
『慈雨』『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』『暴虎の牙』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『教誨』『風に立つ』『逃亡者は北へ向かう』など著書多数。