読売Bizフォーラム東北:講演概要
村井 嘉浩 氏 宮城県知事
「急激に人口が減少する宮城で社会経済活動を維持するために様々な課題を解決しなければならない」。仙台市青葉区のホテルメトロポリタン仙台で9月12日に開かれた「読売Bizフォーラム東北」で、宮城県の村井嘉浩知事が、デジタル技術を活用して業務の効率化を図る「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の先進県を目指す構想を語った。
宮城県は2020年9月、デジタル化を進めて県内産業の活性化を図る「デジタルファースト宣言」と発表。21年9月にはAI(人工知能)を活用して相性の良い相手を紹介する婚活センターを開設し、取り組みを進めてきた。「失敗を恐れては何もできない。最良のものをどんどんリリースし、だめなら回収する」という姿勢を県職員と共有してきたと説明した。
防災分野では、マイナンバーカードから本人や家族の情報を読み取って保存する「デジタル身分証明アプリ」を開発しているという。例えば女川原子力発電所で災害が発生した場合、アプリを活用して周辺住民がどの避難所に行ったかを確認し、行政からアプリを通じて情報を伝えることも可能になる利点を解説した。
8月に模擬訓練を県職員100人で実施したところ、従来のやり方で1時間かかった混雑状況の確認作業が、このアプリによって数分で完了したという。「9月には再度、県庁でアプリを活用して原発災害を想定した模擬訓練を公開して行いたい」と明かした。
アプリには様々な機能を加え、避難者が必要とする物資をアンケート調査し、ニーズを把握して迅速に物資を届けることもできる。観光や経済分野などでもDXの展開を考えているといい、「今までは受動型の県政だったが、能動型に変革して行政のビジネスモデルを大転換する。職員と一体となって取り組んでいる」と締めくくった。
講演を聞いた白石市の温泉旅館「湯主一條」経営の一條一平さん(53)は、「DXによって海外観光客に情報発信するだけでなく、観光客の興味があることを知って地域資源を生かすこともできる。県がデジタルを推進しているのは頼もしい」と話した。青森県三戸町の食品製造販売「太子食品工業」の工藤裕平副社長(39)は、「震災を経験した知事として、原発事故や避難所の混乱などの教訓を生かしていると感じた」と述べた。
講師プロフィール
-
村井 嘉浩 氏 宮城県知事
1960年生まれ。大阪府豊中市出身。
防衛大学校(理工学専攻)卒業後、1984年陸上自衛官に任官。幹部候補生学校を経て、陸上自衛隊東北方面航空隊(宮城県仙台市若林区霞目駐屯地)に配属。ヘリコプターパイロットとして各地を飛び回る(飛行時間約1,100時間)。
上空から俯瞰した東北地方の将来性に魅力を感じ、その中心地である宮城県で政治家になることを決意。一等陸尉で自衛隊を退職し、1992年松下政経塾に入塾。
松下政経塾の創設者である松下幸之助氏の経営哲学や政治理念を学び、1995年宮城県議会議員選挙(宮城野選挙区)に出馬し初当選。以来県議を三期10年勤める。
2005年10月に宮城県知事選挙に出馬し当選。現在五期目。仙台市在住。
座右の銘は「天命に従って人事を尽くす」。趣味は「ウォーキング」。