読売Bizフォーラム東北:講演概要
藻谷 浩介 氏 日本総合研究所主席研究員
12月6日、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が「里山資本主義と東北の未来」と題して講演した。「世界的に見て、大都市に劣らない人口密度と、極めて豊かな自然を両取りできる珍しい地域だ」と東北地方の潜在力を強調した。
藻谷氏は、お金中心の資本主義ではなく、地域資源に付加価値を加えて事業を興すなどして、持続可能な社会の構築を目指す「里山資本主義」を提唱している。
藻谷氏は「日本人は悲観的なので、国際競争力が低下していると思いがちだが、数字を見ると米国や中国などに対しては黒字でもうけている」と指摘した。一方、赤字のイタリアやスイスは、高い人件費や地産地消、大都市ではなく農山漁村に競争力がある−といった特徴があるとした。
また、東北を始め、地方から大都市圏へ人口が流出している現状に触れ、「世界的に見て東京や大阪は人口密度が異常。里山がないので、どうやっても食料も水も自然エネルギーも自給できない」とし、「東京発の情報は怒りと不安に満ちている。生活が大変で、数少ないお金を取られてしまうからだ」と一局集中の問題点を指摘した。ビジネス面でも「東京は人口が多く、商売がしやすい。それに慣れると世界には出て行けない」と述べた。
一方、東北地方については、スイスやオーストリアといった国と同じ人口規模で、「水や食べ物などお金以外の資本が豊富」と言及。昨年度、過去最大になった日本の輸出額も、東北など地方にある、機械や部品を作る工場が支えているとし、「すごい技術力がある。もし東京に何かあっても物づくりの現場には影響がないだろう」と述べた。
参加した仙台市青葉区の日本製紙東北営業支社の近藤政彦支社長(53)は「インターネットが普及し、都会と地方の情報格差が縮まった今だからこそ、自然豊かな東北に住む価値が高まっていると再認識した」と語った。
同区のカード会社「日専連ライフサービス」の滝島正晴副社長(61)は「東北の人は遠慮がちで、本来持っている地域の魅力を発信できていないと感じた。数字化しにくい自然や環境の良さを若い世代に伝えていきたい」と話した。
講師プロフィール
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藻谷 浩介 氏 日本総合研究所主席研究員
山口県生まれの58歳。1988年東京大学卒業。94年米コロンビア大経営大学院でMBA取得。
平成合併前の全3200 市町村、 海外 114ヶ国を自費で訪問し地域特性を多面的に把握。 国内のJR、民鉄、公営交通の全線乗車も達成した。
フィールドワークに基づいた地域振興、人口成熟問題、観光振興、コロナ対応などに関し研究・著作・講演を行う。
2012年より現職。北海道大、東北大、福井県立大など各地の大学で客員教授を務めている。著書に「デフレの正体」「里山資本主義 」(共に KADOKAWA)、「世界まちかど地政学Next 」(文芸春秋)など多数。 共著 に「進化する里山資本主義」 (Japan Times)、「東京脱出論 」(ブックマン社)。