読売Bizフォーラム東北講演概要

井上 慎一  氏 全日本空輸株式会社 代表取締役社長

開催日2023年7月13日 (木)
会場 ウェスティンホテル仙台

 「苦境こそビジネスが生まれるチャンス」−。7月13日に開かれた「読売Bizフォーラム東北」で、全日本空輸社長の井上慎一氏(65)は「修羅場る経営」をテーマに講演し、「修羅場が人間、会社を強くする」と強調した。

 井上氏は全日空に入社後、日本初の格安航空会社(LCC)「ピーチ・アビエーション」を2011年に設立し、初代最高経営責任者(CEO)を務めた。最初は「誰も成功すると思っていなかった。孤立無援の船出だった」といい、世界のLCCの先駆者やイノベーション(事業革新)の研究者に教えを請うことから始めたという。

 LCCはコスト管理が鍵を握る。徹底したコスト削減を図り、宣伝も費用をかけず、SNSで「バズる」話題を提供し、ブランドの認知度を向上。「ゼロから試行錯誤した。前例のないやりくり経営で、事業を軌道に乗せた。ピーチでの学びが、ANAの経営に新しい気づきをもたらしてくれた」と振り返った。

 2020年4月に全日空に戻ると、今度はコロナ禍が待ち受けていた。「人生最大の修羅場だったが、制約がある状況はピーチと同じ。毎日チャレンジして学ぶ」と前向きに捉えたという。「顧客起点」を重視し、アプリの開発など幅広い事業に挑戦。「日常、非日常を問わずにお客様との接点を持って、新たな価値創造をする仕組みができた」と述べた。

 また、結婚式や使わなくなったパーツの販売など、若手社員から募ったアイデアを積極的に採用して大ヒット。「若い人たちの気づきが燎原(りょうげん)の火のように広がり、社員は自分たちでものを考えられる集団に変容しつつある」と胸を張った。

 さらに、同社が取り組む地域創生の取り組みも紹介。宮城県が日本フィギュアスケート発祥の地であることや漫画家・石ノ森章太郎の生誕地であることなどを挙げ、「地域の特色を生かしたツーリズムができるのでは」と提案した。

 講演を聞いた仙台市青葉区の「森永乳業」東北支店、高橋雄一・市乳販売部長(52)は「社内のアイデアを吸い上げる姿勢に感銘を受けた。お金をかけなくても、アイデアでお客を増やす工夫を取り入れたい」と話し、「KDDI」の阿部博則・東北総支社長(58)も「明るく話していたが、やりくりに眠れない日もあったと思う。常に明るいメッセージを発信する井上社長の人間力が伝わってきた」と語った。

講師プロフィール

  • 井上 慎一  氏 全日本空輸株式会社 代表取締役社長

    神奈川県生まれ。1982年3月早稲田大学法学部卒業。

    三菱重工業株式会社勤務を経て、90年9月、全日本空輸株式会社に入社。北京支店総務ディレクター、アジア戦略室長、LCC共同事業準備室長を歴任。

    2011年2月、日本初のLCCとなったPeach Aviation株式会社の前身となるA&F Aviation株式会社に転じ、同年5月からPeach Aviation株式会社 代表取締役CEOに。

    在任中はコスト削減を徹底しながらブランドの認知度を高め、経営を軌道に乗せ、19年11月には同じANAHD傘下のLCCバニラ・エアと統合。成田と関空の2拠点体制を作った。

    20年4月、全日本空輸株式会社代表取締役専務執行役員に就任し、22年4月より現職。