読売Bizフォーラム東北:講演概要
「青森新時代」への架け橋~よりそい、未来へつなぐ~
宮下 宗一郎 氏 青森県知事
「これまでと同じこと、他の自治体と同じことをしていては物事は変わらない」—。9月4日、「『青森新時代』への架け橋~よりそい、未来へつなぐ~」と題して講演した宮下宗一郎・青森県知事は、人口減少対策やエネルギー政策などについて、県独自の取り組みを紹介した。
同県の将来推計人口を示し、「子供の政策を軸に置かないと日本社会は成り立たない」と指摘。少子化対策として、10月から全小中学校で給食費を無償化することなどを挙げ、「子供を大切にする県でいたい」と強調した。
宮下知事は同県むつ市長などを経て、2023年6月、44歳で知事選に初当選。「青森大変革」を掲げ、県政の改革を進めている。
講演で宮下知事は、現在約117万人の県人口が、2050年には約75万人にまで減るとの試算を提示。人口減少に加え、風力発電などエネルギー関連施設が多く立地することから、青森を「課題先進県」と位置づけ、「ここ(青森)が変われば、日本が変われる」と強調した。
人口減対策では、不妊治療費の助成や、10月に始まる全県での学校給食費無償化などの事業を挙げた。女性の地元定着や、子育てしやすい環境作りのためには、社会風土の変革も必要だとして、「少子化対策は企業にも取り組んでもらわない限り、絶対うまくいかない」と述べた。
青森県の風力発電量が全国でも豊富であることを示し、風車が景観や生態系を損ねる事例があると説明。再生可能エネルギーは推進するとした上で、再エネ施設の立地場所を条例で制限する「ゾーニング」などの構想を示し、「自然が搾取されることがないよう、共存できる環境をつくりたい」と語った。
県職員の働き方改革として、ファクスの使用をやめたことや、来年1月にも職員が柔軟に勤務時間を決める「フレックスタイム制」を一部でスタートさせる方針であることなども紹介した。職員の在宅勤務制度も今年10月下旬から拡充する。
フレックスタイム制では、午前10時〜午後3時は必ず勤務する「コアタイム」とした上で、午前7時~午後10時の間、勤務時間を選択できる。平日に1日休みを取得し、週休3日を選ぶことも可能にする。育児や介護を行う職員から先行導入し、2026年度以降、全職員に適用する予定だ。
在宅勤務は現在、育児や介護を行う職員のみを対象に、週1日の自宅勤務を認めているが、今後は全職員が週4日まで、職員の父母らの自宅でも働けるようにする。
宮下知事は講演で「働き方改革をどんどん進め、県庁を明るい雰囲気にしたい」と述べた。
参加したウェブ制作会社「ワンクルー」(仙台市宮城野区)の小林奈津美社長(49)は「少子化問題は行政任せにせず、企業の経営陣が危機感を持って努力しないといけないと感じた。不妊治療がしやすい働き方を作るなど、できることを探したい」と話した。
「杜の風労務法務合同事務所」(同市太白区)の相良朋秋所長(47)は「ファクスの廃止など思い切った政策に、時代に対応する力を感じた。時差勤務をより多くの企業に勧めていきたい」と語った。
講師プロフィール
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宮下 宗一郎 氏 青森県知事
1979年、青森県むつ市生まれ。
2003年東北大学法学部卒業後、国土交通省入省。東北地方整備局用地企画課長、同省まちづくり推進課及び建設業課で課長補佐を歴任。12年6月、外務省在ニューヨーク日本国総領事館で領事を務める。
14年6月、当時むつ市長だった父・順一郎氏の急逝に伴う市長選に出馬、初当選。YouTubeなどSNS等での発信を重視しながら、大規模植物工場誘致による新産業創造、法定外普通税の導入などで市財政の立て直しに尽力。
23年6月の知事選に出馬、「青森新時代」を掲げて初当選。