読売Bizフォーラム東北:講演概要
松田 文登 氏 ヘラルボニー代表取締役共同創業者(Co-CEO)
17日にウェスティンホテル仙台(仙台市青葉区)で開かれた「読売Biz(ビズ)フォーラム東北」(一般社団法人「読売調査研究機構」主催)では、障害のある作家の作品を扱う企画会社「ヘラルボニー」(盛岡市)の代表取締役共同創業者、松田文登さん(34)が講演した。「『異彩を、放て。』をミッションに掲げ、作家とともに新たな文化を作っていく」と強調した。
国内外の福祉施設や障害のある作家とライセンス契約を結び、Tシャツやエコバッグから電車のラッピングまで、作品を基にしたさまざまな企画を打ち出すヘラルボニー。松田さんは作品の使用料を作家に還元しているとし「世界でも数少ないビジネスモデルであることが強み」と紹介した。
背景にあるのは「非営利事業では、障害のある作家の地位が向上しない」との思いだという。障害者によるアート作品は「支援の文脈に乗りすぎてしまう」とし「作品としていいと思って買ってもらい、障害のある作家として一歩を踏み出す状態を作っていきたい」と訴えた。
創業のきっかけとなったのは、知的障害のある兄だったという。「ヘラルボニー」の社名もその兄がノートに書いた言葉が由来。松田さんは「障害のある人が心の中で面白いと思っていることはたくさんある。それを言語化していける会社でありたい」と語った。
ヘラルボニーは昨年、仏高級ブランドのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが主催する「LVMHイノベーションアワード」を受賞。東京・銀座にも店舗を構える。
会社が大きく成長する中、本社は、出身地で創業の地でもある岩手県内に今も置く。松田さんは兄が岩手に住んでいることが理由だといい、「兄が住みやすい社会を実現していくことを考えた時に、岩手に拠点を置き続けていきたいと思った」と説明。地元の企業とも協力しており「岩手で経済効果を生んでいきたい」と語った。
この日の講演のタイトルの「異彩を、放て。」は「会社のミッションに掲げている言葉」だと言う。松田さんは「障害のある人の作品をブランド、知的財産として評価される軸を作る」と力を込めた。
参加した「久米設計」東北支社(仙台市青葉区)の五十嵐学支社長(58)は「志の高さに感銘を受けた。ビジネスとして切り口が洗練されていて、多様性の時代に合った企業。高いクオリティーでやり遂げる志や努力が感じられた」と語った。ウェブ制作会社「ワンクルー」(同市宮城野区)の小林奈津美社長(51)は「商品が素敵だから手に取られ、自然な形で支援につながるという新しい道を作ってくれた」と話した。
講師プロフィール
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松田 文登 氏 ヘラルボニー代表取締役共同創業者(Co-CEO)
1991年、岩手県生まれ。大学卒業後、地元の建設会社に就職。東日本大震災で被災した岩手県沿岸部で復興に従事。その後、双子の弟・崇弥氏と共にヘラルボニーを設立。2人の4歳上の兄・翔太氏が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、福祉を起点に新たな文化の創造に挑む。ヘラルボニーの国内事業、主に岩手での事業を統括。Forbes JAPANが選出する30組の文化起業家「CULTURE-PRENEURS 30」受賞。著書は「異彩を、放て。―『ヘラルボニー』が福祉×アートで世界を変える―」(新潮社)。