読売Bizフォーラム東北講演概要

小泉 武夫  氏 発酵学者

開催日2025年7月1日 (火)
会場 ホテルモントレ仙台

 発酵学者で東京農業大名誉教授の小泉武夫さん(81)は7月1日の講演で、発酵食品を作り出す乳酸菌や納豆菌などの善玉菌を紹介し、「発酵とは目に見えない微生物が人間に素晴らしいものを与えてくれる現象」と説明。和食にはみそ汁や漬物といった発酵食品があるとして、「日本人はいわば発酵民族。和食文化をぜひ大切にしてほしい」と語った。

 福島県小野町の造り酒屋に生まれた小泉さん。麹(こうじ)菌で作られた甘酒について、必須アミノ酸やビタミンが含まれていることを解説し、「まさに飲む点滴。発酵によって非常に高い栄養成分が作り出されている」と指摘。キムチには乳酸菌によるダイエット効果や整腸作用があり、動脈硬化の予防も期待できるという。

 体の免疫力を高める効果もあるという発酵食品。「キムチ納豆」を食べた人が新型コロナウイルスに感染しにくかった例も紹介した。自ら行った実験では、がん細胞の増殖を抑制するデータも得られたといい、「将来的には微生物から、がんの特効薬ができるのではないか」と期待した。

 また、古くから伝わる和食に含まれる豊富な栄養成分についても説明。みそ汁と漬物といった発酵食品とともに、野菜や豆、海藻類などの食事を例に挙げ、「日本人は世界一のベジタリアン。食物に含まれた繊維が腸で活躍する。和食は『免疫食事』とも言える」と強調した。

 「畑の肉」と呼ばれる大豆には、牛肉に匹敵するたんぱく質が含まれていると紹介。江戸時代には、みそ汁に豆腐と納豆、油揚げを入れた究極のスタミナ食があったといい、「夏の疲れた時にはぜひこの食事を試してほしい」と呼びかけた。

 一方、肉食や洋食文化が浸透している現代社会に懸念を示し、「もっと学校教育で和食の大切さを教えてほしい」と訴えた。

 小泉さんの話に約70人の参加者も興味津々の様子で聴き入った。警備会社「セコム」の久保田顕・東北本部長(63)は「発酵食品の奥深さを理解できた。毎朝、納豆と漬物を食べているので自信になった」と笑顔をみせた。東京農大出身という栗原市の「金の井酒造」の三浦華子常務(29)は「改めて食生活の大切さを学ぶことができた。日本人として生まれた意味を再確認するいい機会だった」と話した。

講師プロフィール

  • 小泉 武夫  氏 発酵学者

    1943年、福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学名誉教授。農学博士。専門は食文化論、発酵学、醸造学。鹿児島大学、福島大学、宮城県立大学などの大学で客員教授を務める。発酵食品ソムリエ講座「発酵の学校」の校長として、技術者や後身の育成に力を注いでいる。NPO法人発酵文化推進機構理事長や全国発酵のまちづくりネットワーク協議会会長など、食に関わる活動も行う。著書は「食と日本人の知恵」(岩波書店)、「発酵食品の奇跡」(文藝春秋)、単著で150冊を超え、日本経済新聞社のコラム「食あれば楽あり」は30年以上にわたり連載中。