YIES(読売国際経済懇話会):講演概要
[第391回講演会] 権威主義に立ち向かう倫理資本主義 ―「入れ子構造」の世界的危機に哲学が求められる理由
マルクス・ガブリエル 氏 哲学者/ボン大学教授
読売国際経済懇話会(YIES)の講演会が、9月26日に開催された。講師は、ドイツの哲学者でボン大学教授のマルクス・ガブリエル氏。自国第一主義などに基づく「権威主義的資本主義」が世界で台頭しつつあるなかで、これに代わる独自の価値観として「倫理資本主義」が必要だと強調した。
権威主義的資本主義は「非自由主義的で、独占に傾き、市場を嫌う」といった特徴を持つことを挙げ、直面する脅威だと訴えた。その対抗軸に掲げたのが倫理資本主義。道徳的価値観を経済活動につなげていくものだと説明し、「自由民主主義の道を歩み続けたければ、科学技術や経済だけでは不十分で、倫理的な洞察による価値の創造が必要だ」と語った。
明治期の実業家・渋沢栄一が、代表作「論語と算盤」で道徳と利益追求の両立の重要性を説いていることから、「日本は倫理本主義の卓越した歴史がある」と評価。現代は生態系の危機や地政学的緊張、経済格差といった複数の危機が絡み合った「入れ子構造の危機」にあるとし、その解決に向けて「市場だけでなく、価値観でも(日本が世界を)先導していくべきだ」と鼓舞した。
冒頭のあいさつを日本語で行うなど、日本との関係の深さも垣間見られた。約70人の参加者はガブリエル氏のユーモアを交えた話しぶりを楽しみつつ、終始聞き入っていた。
講師プロフィール
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マルクス・ガブリエル 氏 哲学者/ボン大学教授
国際的に著名な哲学者であり、現在ボン大学にて認識論、近現代哲学の講座を担当。
2009年、ドイツ史上最年少の哲学正教授に就任。 2012年よりボン大学国際哲学センター所長、2017年より同大学科学思想センター所長を兼任。 カリフォルニア大学バークレー校、ニューヨーク大学、スタンフォード大学、パリ第1大学(ソルボンヌ)、リオデジャネイロ・カトリック大学(PUC)を含む数多くの機関において賞を受賞し、フェローまたは客員教授を務めている。
2022年から2024年まで、THE NEW INSTITUTEのアカデミック・ディレクターを務めた。 2024年に京都哲学研究所のシニア・グローバル・アドバイザーに就任し、2025年にAcademy for Deep Innovation – Business, Philosophy, Scienceを設立。
著作は多言語に翻訳され、国際的なベストセラーとなっている。 代表的な著作に『なぜ世界は存在しないのか』“Moral Progress in Dark Times” などがあり、近刊には『倫理資本主義の時代』がある。