読売広論セミナー大阪:講演概要
金融行政の当面の課題と方針
中島 淳一 氏 金融庁長官
金融庁の中島淳一長官が5月17日、「金融行政の当面の課題と方針」をテーマに講演しました。コロナ禍が収束した後の経済再生に向け、地方銀行をはじめとした地域金融機関が先頭に立って「地域経済の司令塔の役割を果たしてほしい」と述べました。
中島氏は、国内の金融機関の経営状況について「現在は安定している」と評価。一方、ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響で、景気が落ち込むリスクを指摘。倒産の増加によって「金融機関の財務が傷む可能性がある」との認識を示しました。
低金利が長引き、利ざやで稼ぐ地域金融機関のビジネスモデルは転換点を迎えています。中島氏は「今までと同じことをやっていても融資先は増えない。地場産品の販路拡大に向けて、地域商社などの事業もできる。経営基盤の強化が必要だ」と指摘しました。
岸田内閣が経済政策「新しい資本主義」の一環で進める「資産所得倍増プラン」にも触れ、「投資の収益を消費に結びつけ、日本経済の成長につなげたい」と述べた。投資を加速させるため、金融庁としてNISA(少額投資非課税制度)の拡充などに取り組む方針を示しました。
講演後の質疑応答では、阪急阪神ホールディングスの角和夫会長が円安対策を質問しました。中島氏は「円安が進めば円の力が弱まる。(円安を食い止めるために)金利を上げると企業の設備投資や住宅ローンの需要が減り、景気にマイナスの作用が出かねない。金融政策は難しいかじ取りになる」と答えました。
講師プロフィール
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中島 淳一 氏 金融庁長官
神奈川県出身。東京大工学部卒、旧大蔵省(現財務省)入省。
銀行局など主に金融畑を歩み、金融庁で企画市場局長や総合政策局長などを歴任した。
2021年7月、金融庁長官就任。理系出身の長官は金融庁発足以来、初めてとなる。59歳